MEMBER

古民家で暮らす豊かさをこの場所から

冨塚 崇
(とみづか たかし)
宮城県 仙台市出身
起業/現役隊員
 柿渋で塗られた床は落ち着いた雰囲気を醸し出し、梁を残したままの吹き抜けからは柔らかな光が差し込む。ゆったりと設けられたそれぞれの窓の外には、豊かな自然を独り占めするかのような景色が広がる。
 この建物を手掛けたのは、丸森町の羽入地区を拠点に活動する地域おこし協力隊で、一級建築事務所yetoの主宰の冨塚崇さん(38)。広大な敷地内には4つの建物があり、築100年を超える古民家の一部を自宅兼ショールームに、元々豚小屋だった建物は事務所へと生まれ変わらせた。
 「古民家を改修して快適に暮らす、という選択肢をこの場所から広げていきたいんです」。冨塚さんはそうした想いからこの場所を「実験室(ラボ)」と名付け、自らの暮らしをモデルケースとして発信している。

「いつかは自然の中で」と思い続けて

 仙台市内の自然が身近にある住宅地に生まれ、図工やブロック遊びが好きな子どもだった。そんな冨塚さんが「ものづくりに携わりたい」と、高校卒業を前に選んだのが建築の道。県内の大学、そして都内の大学院でのめり込むように学び、そのまま都内の建築設計事務所に就職した。都会での生活を続けながらも「いつか、子ども時代を過ごした仙台に帰って自然の中で暮らそう」という想いが常にあった。
 2021年、都内での独立後、ほどなくして携わった初めての古民家改修が現在へとつながる転機となった。そこで目の当たりにした古民家特有の空間の広さ、そして時間の積み重ねの中で育まれたであろう温もりに気が付けば魅了されていた。
 それからは東京にいながら東北各地の魅力的な古民家を探しては現地に足を運んだ。丸森の物件もそのうちの一つだった。「のどかで緑がたくさんあって、自然とこの場所で暮らすイメージができたんです」。漠然とした理想が目の前の景色に重なっていくのを感じた。

未完成な過程もそのまま見せていく

 丸森を新たな拠点とすることを決めた際、冨塚さんの理想の将来像をまとめた一つの絵がある。その絵の中では、敷地内に自宅や事務所、ゲストハウスやバー、さらにはサウナなどがあり、人々が笑顔で交流する。
 移住して3年が近づく中で、「まだまだビジョンの30%くらいですね」と冨塚さん。「未完成な過程を見せていくこともまた実践の一つですから」と苦笑するが、その表情からは理想の暮らしが手の届く場所にあることの充実感が滲み出ている。

自らの手で耕していくことのできる余白

 なんでもある都会とは違い、丸森にはないものもたくさんある。しかし、冨塚さんは「豊かさというのは、暮らしを自らの手で耕していける余白があることだと思うんです」と贅沢と豊かさの違いを語る。
 まだ手付かずの建物や庭も、形にできていないビジョンも、自らが手を動かせばひとつひとつ良くしていくことのできる余白。さらに、「きっとそれは丸森という町も同じ。だから僕は、町の課題にも積極的に関与して少しずつ良い循環をつくっていきたい」と、自身のこれからを見据える。
 緩やかに変わり、未完成であり続ける「実験室(ラボ)」。その周りでは、完成もゴールもなく移ろい続ける山の木々が、余白という豊かさに彩りを添えるようにゆっくりと色づき始めている。
一級建築士事務所 yeto(イェット)
事業内容:
・建築、リノベーション、インテリア、ランドスケープの調査・設計・工事監理
・まちづくり、土地空間利活用の調査・企画・計画・設計・工事監理

住所:
丸森町羽入56

Mail:
info@yeto.jp

WEB:
https://www.yeto.jp/

文・口笛書店/撮影・江森 康之

その他の丸森町地域おこし協力隊

    地域おこし協力隊一覧