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キッチンカーで行きたい場所へ、会いたい人へ

疋田 素能子
(ひきた そのこ)
宮城県 松島町出身
起業/元隊員
 「お待たせしました!」
 キッチンカーの小窓からホッとする香りと共に挽きたてのコーヒーを手渡す、元地域おこし協力隊の疋田素能子さん(37)。「大学時代から夫とよくカフェ巡りをしていたんです」というほどのコーヒー好きであり、現在は「まるひき3C」という屋号のもと、「◯◯とコーヒー」というキッチンカーで丸森町内の各地区へ心落ち着くひと時を届けている。屋号の「まるひき3C」は「丸森で疋田がコーヒー(Coffee)でコミュニティ(Community)をコネクト(Connect)する」という想いから名付けた。

転機は偶然目にした一つのネットニュース

 「『いつかはコーヒー屋さんを』と思ってはいたものの、“いつか”はあくまでも“いつか”で、漠然とした夢でしかありませんでした」。学生時代にも多くの夢はありながら、「好きを仕事にするのは難しい」と諦め、結果的に就職したのは仙台市にある印刷会社の営業職。働いてみると、多くの出会いに恵まれた時間ではあった。
 転職も経験し、サロンの総合受付窓口や自動車会社の事務にも従事した。転機となったのは行動が制限されたコロナ禍の日々。自宅と会社を往復し、会社でも電話で決まった人たちとだけ会話をするような毎日に、次第に疑問を抱くようになっていた。
 「丸森町に面白いことを持ってきませんか?」
 そんな時に偶然目にしたのが丸森町の地域おこし協力隊のネットニュースだった。「ねえねえ、見て見て」と何気なくスマートフォンを手渡した夫から返ってきたのは、「面白いね、一緒に移住してもいいよ?」というまさかの言葉。「きっと悩んでいた私の気持ちを汲んでくれたんだと思います」。コーヒー好きの二人の中で、移住して挑戦する“面白いこと”は一つしかなかった。

今の職業は「半キッチンカー半農業」

 「喫茶店がない」という町の課題を聞き、当初は店舗での営業を考えていたが、実際に来てみると中心部には喫茶店があることを知った。そして各地区を回ると、そこには多くのコーヒー好きな人たちがいた。「喫茶店があっても来れない人がいる。それなら、こっちから行けばいいんだ」。そうして選んだのが今のキッチンカーという形態。営業を始めてもうすぐ丸3年となる中、「楽しみに待ってくれている人に、会いたい人に、自分から会いに行ける。おかげで自宅と会社の往復だった会社員時代とは真逆の生活です」と充実した表情を見せる。
 さらに、キッチンカーの傍らで農業にも勤しみ、「やってみたら楽しくて。今の私の職業は“半キッチンカー半農業”かもしれないですね」というほど熱中している。自身で育てた野菜や知り合いの農家の野菜も販売しており、「コーヒーよりも野菜の売上げの方が多い日すらあるんです」と笑う。

全ての選択がこの道につながっていた

 畑からすぐの阿武隈川沿いの堤防に上がると、遮るもののない景色が広がる。「これまでの人生でもいろんな道を通ってきて、丸森に来てからもキッチンカーでいろんな道を走ってきました」。その人生の過程では迷ったり後悔したことも確かにあった。「でも今は、全ての選択がこの大好きな道につながっていたんだなって思えるんです。だから、全ての人に感謝ですね」と、疋田さんは今日も、コーヒーと感謝の気持ちを届けに、キッチンカーを走らせている。
まるひき3C(キッチンカー「◯◯とコーヒー」)
事業内容:
キッチンカー(移動販売)、コーヒー販売、農産物販売等

場所:
丸森町内各所、宮城県内

Instagram:
@maruhiki2021

文・口笛書店/撮影・江森 康之

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