いつも包み込んでくれた“すごいばあちゃん”
小学校時代はスポーツやピアノといった習い事に打ち込む日々を送った横塚さん。一方で、持病のアトピー性皮膚炎やてんかんなどで、思うようにならない時期もあった。
そんな横塚さんをいつも包み込んでくれたのが同居していた祖母。祖母が作ったカリンの蜂蜜漬けを頬張ると不思議と元気になり、蚊に刺された時には弟切草を漬けたアルコールを塗るとすぐに腫れが引いていく。「ばあちゃんってすごい!」。地域で脈々と受け継がれてきた祖母の知恵と、丸森の自然の中にある天然の素材という、当たり前に身近にあるものたちの“すごさ”。幼少のこの出会いが、後々の横塚さんの、自然由来の素材を利用した施術への強い興味と意欲、さらには現在進めている竹や酵素風呂の取り組みへと繋がる原体験となった。
「結局、私はなにをやりたいんだ?」と自問自答して
持病に悩まされたり、家族との関係が上手くいかなかったりした際、自分自身の気持ちを表現し、横塚さんの心を落ち着かせてくれたのが、ずっと続けていたピアノだった。そこで高校卒業後はその音楽の仕事を夢見て丸森を離れ、上京。しかし、音楽の仕事は、オファーこそあったものの、受け入れ難い条件を前に見切りをつけた。
働く上で横塚さんが一番大事にしていたのは「好きなことしか仕事にしたくない」という真っ直ぐな想い。しかし、音楽の道に見切りを付けてからは、明確な目標が見つからないままアルバイトで食い繋ぐ日々も送った。
てんかんの薬の副作用がひどく日常生活もままならない東京での暮らしの中で、一つの救いだったのが、かつて祖母からそうしてもらったように、自然由来の素材で施術をしてくれるリラクゼーションサロン。通い続けていたある日、目にしたのが「未経験可」という求人の張り紙だった。それは、久しぶりの「好きなこと」への挑戦。立ち止まっていた横塚さんにとって、まずは動き出すことが何よりも重要だった。その後、セラピスト、さらにはエステティシャンとしてやりがいを胸に働き、独立も果たした。
自然災害やコロナ禍などが立て続く中で、次第に丸森のことが気がかりになっていった。同時期に夫との別居も重なり、悩みと葛藤は増すばかり。さらに、幾度もの引っ越しを余儀なくされる想定外の出来事が続き、心労も限界を迎えた頃、ふと自問自答した。「結局、私は何をやりたいんだ?」。仕事や自分自身をはじめ、いつしか様々なことから自立できなくなっていた自分。そう気付き、もう一度自分自身の足で自立しようと決めた時、ずっと心にあった「田舎で酵素風呂を始めたい」という夢のその“田舎”が、自然と「丸森」と重なった。
好きな町で好きな仕事ができる喜びと共に
23年ぶりの丸森は、学生時代とはまるで違って感じられ、知れば知るほど興味が膨らんでいった。「当たり前過ぎて見えていなかっただけで、丸森にしかないものがたくさんある。丸森の歴史もそうで、それは丸森で生きてきた全ての方々によって紡がれ、受け継がれてきたもの。そう気付いたら、丸森に生きているだけで、もうそれだけでみんなすごいじゃんって思うようになったんです」。丸森帰郷して以降、そうした気付きに導かれるように、横塚さんのビジョンも形を変えながら膨らんでいき、そのビジョンを形にできる場所、共感してくれる人々との出会いによって、挑戦への不安は今、楽しみへと変わっている。
現在は、ビジョンの実現へ「鳥屋館8amboo(とやだてバンブー)」を立ち上げ、施設のオープンに向けて奔走する日々。「ここはまちの歴史が詰まった場所で、その歴史はつまり、町の人々の幸せを願ってきたものだと思うんです」と横塚さん。「ここを、みんなが穏やかな笑顔でいられる場所にできたら」。そう語る横塚さんの表情はすでに、好きな町で好きな仕事ができる喜びに満ちていた。
鳥屋館8amboo(とやだてバンブー)
事業内容:
酵素風呂 等
場所:
丸森町除北46
営業時間:
2025年6月プレオープン予定
文・口笛書店/撮影・江森 康之